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横浜公園水琴窟の謎から浮世絵で港崎遊郭の歴史を紐解く

ココがキニナル!

スタジアムがある横浜公園内に水琴窟がありますが、なぜあそこに水琴窟があるのでしょうか?(浜っ子おじさん)

はまれぽ調査結果!

横浜公園の水琴窟の謎を探ることをきっかけに、開港期横浜の一大遊興場だった港崎遊郭が外国人「おもてなし」の原点であったことが浮き彫りになってきた。

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2019年09月16日

ライター:結城靖博

横浜公園がかつて、開港期に幕府主導で誕生した港崎遊郭(みよざきゆうかく)であったことは、よく知られた事実だ。公園内の彼我庭園(ひがていえん)の中にある石灯籠が遊郭の名残りであることを、園内の解説板が紹介しているので、目にした人も多いだろう。
 


庭園内の石灯籠と解説板

 
支柱に港崎遊郭随一の遊女屋「岩亀楼」(がんきろう)の文字が刻まれている石灯籠は、遊郭が火事で焼失したあと南区の妙音寺(みょうおんじ)に置かれていたが、のちに横浜市に寄贈され、もとあった岩亀楼の付近に帰還した。
 
ならば同じ庭園内にある水琴窟(すいきんくつ)も、港崎遊郭と何か深い関係があるのではないか?まずはキニナル水琴窟がどんなものか見てみよう。
 
 
文明開化の地のど真ん中で異彩を放つ風流スポット
  


横浜公園内の彼我庭園。門の奥の竹垣の中が水琴窟のあるところ

 


水琴窟と石灯籠の位置関係 © OpenStreetMap contributors

 


この奥に水琴窟がある。渋い!

 


入り口の横にイラスト入りの解説板もある

 
解説板に書かれている通り、正しくは「蹲踞(つくばい)と水琴窟」だ。水琴窟は蹲踞あってこそのものなので。
茶室に入る前に手や口を洗い清める手水鉢(ちょうずばち)が蹲踞。背が低いため洗うときに蹲(うずくま)るのでその名がついた。水琴窟は洗い終えた水の排水口の下に作られた仕掛けで、落下するかすかな水音を愛でる風流な装飾物だ。詳しい構造は解説板のイラストをご覧あれ。
 
では、実物はどんなかな? わびさび感あふれる入り口から中へ入る。
 


左奥が蹲踞、右手前が水琴窟

 


水琴窟のそばには長い竹の棒も置いてある

 
昔テレビで見た記憶がよみがえる。確かこの棒を水琴窟の排水口の上に立て、反対側の先端に耳を当てて音を聞くんじゃなかったろうか。
 


こんな風に立てて、指を差したところに耳を当てて・・・

 
聞いてみた。心静かに耳を澄ますが「ゴォーッ」という音しか聞こえない。当たり前だ。「水を流さなきゃ聞こえるわけないじゃないか、キミ!」と、自分に喝!
 


さっそく手水鉢に溜まった水を手ですくう

 
あまりお上品ではないが仕方がない。すくった水を何度も排水口にかける。
 


やがて充分水琴窟が潤ったところで、ふたたび竹竿を立てて耳を当てる

 
すると、聞こえてくるではないか。「カラリン、コロリン、カラコロリン」と、高い鈴の音のような音が。取材時は真夏の昼下がり。ホッと救われたような涼やかな音色だった。
 
 
水琴窟と港崎遊郭の関係を横浜市に尋ねる
 
水琴窟とは以上のようなものだ。では、この風流なオブジェと港崎遊郭との関係は?
 
公園を管理する横浜市環境創造局の担当部署に問い合わせてみた。
すると「蹲踞(と水琴窟)はもともと実用的なものですが、装飾として日本庭園に用いられることも多く、この彼我庭園においても、その風情を楽しむために設えられたと推測され、ご質問にあった港崎遊郭との関連性は、おそらくないものと思われます」とのこと。
「推測」とか「おそらく」という言葉が気になるが、少なくとも明確な関連性は認められないようだ。
 
となると・・・これで今回の取材は終わってしまう。だが、それは残念だ。
実ははまれぽでは、港崎遊郭から始まり現代にいたる横浜の風俗史をこれまで何本か記事にしている。しかし、その原点となる港崎遊郭に正面からスポットを当てた記事は、意外にも少ない。それは、開業後7年で大火により焼失移転してしまい、短命であったせいもあるだろう。
 
だが一方で港崎遊郭は、開港期に大量に描かれた「横浜浮世絵」の題材として多く取り上げられている。浮世絵に頻繁に描かれるということは、世間の関心の高さを物語っている。
そこで今回は「横浜浮世絵」を中心に、寒村横浜に突如出現した大歓楽地「港崎遊郭」の歴史をビジュアル的に辿ってみることにした。
 
 
遊郭を取り巻く開港期横浜のにぎわい
 
そもそも前年に日米修好通商条約が結ばれ、1859(安政6)年6月に開港場(かいこうじょう)となる前の横浜は、こんな感じだった。
 


「横浜村幷近傍之図」(横浜市中央図書館所蔵)

 
砂州上にわずか100戸ほどの民家が肩を寄せ合い、まわりを江戸時代に少しずつ開発した新田が囲む、まさに「寒村」という印象の開港前の横浜村だ。
 
それが、開港されるや否や、こうなる。
 


五雲亭貞秀「神奈川横浜港案内図絵」1860年(横浜市中央図書館所蔵)

 
開港当時の横浜港を描いた浮世絵は数多あるが、なるべく前掲の横浜村の絵に近い視点のものを選んだ。1860(万延元年)7月の出版。わずか開港から1年余り・・・。驚くべき速度の変貌ぶりだ。
中央をタテに貫く大通りの右手が日本人の商人街、左手が運上所(税関)、さらにその左の英米仏の旗がたなびく場所が外国人居留地だ。
奥の新田の真ん中には港崎遊郭も描かれている。一ヶ所ポツンと離れている姿が、別天地を思わせる。
 
もともと外国公使団は横浜を開港場とすることに反対だった。交通の要である東海道から遠く、江戸への行き来が不便だからだ。しかし、外国人をなるべく江戸から遠ざけたかった幕府からすれば、それこそが狙いだった。
そこで幕府は条約が締結すると、開港前に突貫工事で横浜の開港場を建設してしまう。同時に、気が進まない外国人たちを横浜に引きつける重要なアイテムの一つとして、港崎遊郭をつくる。
 
出来てしまえばこっちのもの。上海や香港で中国貿易を営んでいた外国人商人たちが、一攫千金の夢を追って続々と横浜の居留地へ流れてきた。生糸貿易などで潤った彼らは、やがて居留地で贅沢な暮らしを始める。
 


一川芳員「横浜異人館之図」1866年(横浜市中央図書館所蔵)

 
だが、横浜は外国人にとっては極東の僻地だ。そこに突如出現したフロンティアに群がる商人たちは、真の紳士淑女と言えたかどうか。ある外交官は、横浜の外国人社会を「ヨーロッパの掃きだめ」と記したという。
 


二代歌川広重「横浜異人館之図」1861年(横浜市中央図書館所蔵)

 
一方、一攫千金を狙うのは外国人だけではない。日本人の商人街もあれよあれよと発展し、街は活況を呈する。
 


一勇斎国芳「横浜本町之図」1860年(横浜市中央図書館所蔵)

 
上の絵は開港1年後の本町通り。やがて「日本のウォール街」と呼ばれるこの通りには、すでに画面左手に三井が支店を構えている。
 
そんな中、港崎遊郭は攘夷運動が激化する幕末にあって、贅沢三昧だが規制も多く不自由を強いられていた居留地の外国人たちの慰安と、日本人商人たちにとっての接待の場として機能していく。
 
 
欲望への道を辿る人々
 
遊郭はかつて日常から逃れる必要悪の悪所(あくしょ)だった。だからこそ日常からの距離が地理的にも求められる。また、新田の中にポツンと離れて、通じる道はたった1本、さらに周囲を掘割にぐるりと囲まれていたのは、遊女の逃亡を防ぐ意味もあった。
 


五雲亭貞秀「横浜本町幷ニ港崎町細見全図」1860年(横浜市中央図書館所蔵)

 
上の絵は角度を変えて開港場と港崎遊郭を描いたもの。右の開港場から左下の港崎遊郭へ続く直角に曲がる一本道が印象的だ。
その一本道を主題にして描かれたのが次の絵。大勢の人が行き交う様子がわかる。
 


五雲亭貞秀「横浜港崎町大門橋真景」1860年(横浜市中央図書館所蔵)

 
港崎遊郭の構造は江戸の吉原遊郭を真似たという。掘割で囲み、門を一つだけにし、その門の名を吉原と同じ「大門」(だいもん)としたのもそのためだ。
さらに角度を変えて大門にグイッと迫った絵を見てみよう。
 


五雲亭貞秀「神名川横浜華郭之光景」1860年(横浜市中央図書館所蔵)

 
まるでハーメルンの笛吹き男に誘われるように、人々がゾロゾロ大門をくぐっていく。よく見ると老若男女、さまざまな階層の人たちがいるようだ。なぜだろう?
その理由を探るべく、いよいよ遊郭の内部へ潜入することにした。
 
と、その前に・・・
 
 

 

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